Scene.22 本屋って! 素敵じゃないか。
高円寺文庫センター物語㉒
美術館や洋館巡りと、映画に海と温泉にボウリングや野球。遊びもすべて本屋の店長の肥やしと、感性の洗濯は怠らなかった。どんな読書相談や、新刊にも反応できるアンテナはビンビンだったぜ!
ポール・デルボーとベルギーの画家たちの、美術展を観に行っていた。デルボーは20代で虜になった、ベルギーのシュールレアリスム画家。
映画と同様に手当たり次第に観ていた絵画だったけど、印象派は退屈で辿り着いたのはシュールレアリスムと琳派だった。わが荒ぶる魂に呼応する絵画たち!
そんなデルボーの絵画に魂までエレクトしちまったから、クールダウンと煙草を燻らしていたら・・・・携帯に電話!
清志郎さんのマネジャーからだった!
忌野清志郎さんが、隔週刊誌『テレビブロス』で連載していた「瀕死の双六問屋」が光進社から単行本にまとまると知って、担当編集者の石原さんに猛アタックをした結果だった。
「はい、ありがとうございます!」を、連呼していただろう情景は、初夏の日差しに輝いて記憶に鮮やかに残っている。
Xデーは決まった!
高円寺文庫センターの「史上最大の作戦」、プランニングをしなければ!
「おっはー!」
「なんばい、内山くん。流行に影響されとるね~あれ? 近鉄バッファローズのキャップはどぎゃんしたと!
それは、メジャーのヒューストン・アストロズのキャップばいね」
「ライブの打ち上げで失くしたけんが、星が欠けちょるデザインもよかねぇ~って、買ったけん。よかやろ?!
あれ、店長。ニューバーグのママさんが呼んどるばい」
「おい、店長!」
「お久です、木田さん!
内山くん、ママさんの話を聞いといて」
「店長、頼みがあってな。
本屋ならって、現金の流通を見込んでの話なんだけどよ。新二千円紙幣と、出たばっかの五百円硬貨を少し両替してくれねえか?!」
「お安いご用です。
仰る通りで、現金商売。新硬貨どころか記念硬貨も集まりやすいので、キープあるんですよ」
「なんかノリが違うな、いいことあったの言ってみろ!」
「はい、雑誌の『Slugger』に懸賞の応募したらメジャーリーグのベースボール・カードセットが当たりました」
「ばーか、自己中にしてもNG! ほかに、あんだろ」
「原宿のビートルズ・ショップのイエローサブマリン・プラモコンテストで、優勝しました!」
「個人的な、自己満足じゃないか! 本屋だろ、ばっか!」
「すいません・・・・まだ、公表できないんですけど忌野清志郎さんの握手会が決まりました」
「なに、高円寺に清志郎が来るのか?! こんな本屋に・・・・
脱帽だ、おまえら認めるわ!」
「こんにちは、お世話になってます!」
「お、高円寺本舗の手越くん。
売れてるねぇ、追加で支払いの伝票を見ているからさ! もう何百部、売れているんだろうね?!」
「ホントに、みなさんの500円のワンコインでまとめろってアドバイスが効いています。ダントツで文庫センターさんが、売れに売れているんですよ」
「そっか、よかったね。うちへの納品は切らさないように、頼むよ!
そだそだ、手越くんはついにメジャーデビューじゃないの。『大中央線主義』を、情報センター出版局から出すって凄いじゃん。
手越くんが来たらって思っていたんだけどさ、その新刊でイベントをやろうよ!」
「ありがとうございます。
いろいろなお話をいただいているんですけど、ボクはそういうの大の苦手なんです。本当に、申し訳ないです」
「そっかぁ、まぁそんなキャラじゃないかなって思っていたから。とにかく『高円寺本舗』と並べて、長く売って行こうよね。
情報センター出版局さんも、うちに力入れてくれているからさ」
「はい。少しでも潤えば、次の企画にも行けるので助かります」
「たいしたもんだな、まだまだ先を考えてんだ。そん時は、また相談においでよ!」